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アメリカ合衆国

僅か0.6t重過ぎる国産初ジェット旅客機MRJ90、米国内で「飛べない」可能性高まる 1

タレコミ by Anonymous Coward
あるAnonymous Coward 曰く、
アメリカの大手航空会社は、破綻と破産法11条による再生を繰り返しながら、今やデルタ航空、アメリカン航空、ユナイテッド航空のビッグスリー3社に集約されている。各社は自社で国際線と国内線の基幹路線(ハブ)を運航し、小需要の路線(スポーク)についてはリージョナル航空会社に運航委託している。これが「ハブ・アンド・スポーク」と呼ばれる路線形態である。
そして、実は大手航空はこのリージョナル航空への委託契約によって、最終利益の大部分を得ており生命線である。しかし、大手航空のパイロット組合から見れば、このリージョナル航空への委託が増えることは、自分たちの職域を侵すものにほかならない。ましてや、リージョナル航空が運航する機体(リージョナル・ジェット)が大型化してきたことは看過できない事態であった。そこで、労使交渉の末、スコープ・クローズと呼ばれる協定を結び、機材の席数、大きさを制限することになったのである。
航空会社間で微妙な違いはあるが、代表的なスコープ・クローズによるリージョナル・ジェットへの制限は、「席数:最大76席」「最大離陸重量:39トン(8万6000ポンド)」である。このため、リージョナル航空会社は、90席クラスのリージョナル・ジェットを、大手航空の要求でもあるファーストクラス(ビジネスクラス)を設け全体席数を76席に抑えて、大手航空ブランドで運航している。規制緩和の流れのなかで、この制限値は早晩緩和されるものとみられていたが、つい最近まで労使交渉は暗礁に乗り上げている。
三菱航空機が開発中のMRJ90の最大離陸重量は標準型で、39.6トン(8万7303ポンド)である。つまり、スコープ・クローズの制限値39トンより、わずかに0.6トン重いだけなのである。それでも制限オーバーには変わりなく、米国内では運航できない。
そこで、当面50機導入予定のトランス・ステイツ社のリーチCEO(最高経営責任者)は、5月にノースカロライナ州シャーロット市で開催された全米リージョナル航空コンベンションでの記者会見で、「欲しいのはもちろん90席クラスのMRJ90なのだが、スコープ・クローズの制限値が変わらないのなら、軽いMRJ70(76席/36.65トン)への切り替えを考慮せざるを得ないかもしれない。決断のタイミングを計っているところだ」と述べている。
70席クラスのMRJ70を決定した後、重量制限が緩和される可能性も十分あり、トランス・ステイツ社として難しい判断である。一方、100機導入予定のスカイウェスト航空CEOのチャイルズ氏は、「現段階では、MRJ90しか考えていない。とにかく、スコープ・クローズの制限値が交渉のテーブルに乗るのを待つだけだ」と述べている。
三菱航空機は米国の情勢を見て、MRJ70についても、MRJ90の後に型式証明がとれるよう準備を開始している。しかし、最良の策は、若干航続距離を犠牲にして、最大離陸重量39トンのMRJ90アメリカ版型式証明を追加することである。なぜなら、世界のリージョナル・ジェット市場では、50席、70席クラスは退役の方向であり、航空会社は90席、100席クラス以上に向かっているからである。
ましてや、米国国内線では大手航空の要求でファーストクラス、ビジネスクラスを設定するため、結果的にMRJ70は全体座席50~60席の中途半端な使い勝手の悪い機材になる可能性が高い。最大離陸重量を下げることはボーイングでもよくやられることで、飛行試験が必要なわけでもなく、当局の書類審査だけで済む。
ただ、三菱としては多大なエンジニアリング・コストがかかり、また、重量制限が緩和されれば徒労となってしまうため、難しい判断を迫られる。

一方MRJ90の直接のライバルとなるのは、ブラジルのエンブラエル社が開発中のE2シリーズで最も小さい90席クラスのE175-E2であり、2020年には航空会社に引渡し可能となっている。このE175-E2には、MRJ90と同様の燃費性能の高い新型エンジンが搭載され、MRJ90の売りである燃費性能の優位性は小さくなってきている。
しかしながら、着目すべきはライバルであるE175-E2の重量である。同型機の最大離陸重量は、44.8トン(9万8767ポンド)とスコープ・クローズの制限値より5.8トンも重いのである。とても調整できるレベルの差ではない。つまり、スコープ・クローズ制限がある限りE175-E2の米国市場での出番はなく、MRJ90が最大離陸重量を変えた場合、一人勝ちになる可能性すらあるのである。最大のピンチは、最大のチャンスでもある。
米国には、90席クラスのリージョナル・ジェットは欲しいが、スコープ・クローズを気にして決断を躊躇している航空会社がいくつもある。もし三菱が最大離陸重量39トンのMRJ90の型式証明の追加予定を早々とアナウンスすれば、堰を切ったように受注オーダーが増えるかもしれない。

三菱重工がMRJ90開発に当たって、スコープ・クローズ協定を睨んでいない筈もなく、睨んでいたからこそこの線まで寄せて来られたのだろうが、宇宙機・スポーツ用品と並んで、質量管理に五月蠅いのが航空機であるが、またそれに失敗するのも常ではある。

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未知のハックに一心不乱に取り組んだ結果、私は自然の法則を変えてしまった -- あるハッカー

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