Donald Knuth、 ソフトウェア特許反対の意見書を欧州特許庁に提出 24
ストーリー by reo
知識人かくあるべし 部門より
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組版処理システム TeX、フォント制作用プログラム METAFONT、アルゴリズムの教科書の金字塔 The Art of Computer Programming 等で知られる Donald Knuth が、ソフトウェア特許に反対する意見書を欧州特許庁に提出した (GrokLaw の記事より) 。
現在 EPO は、ソフトウェア特許を原則的には認めていない。しかし昨年来この件が再検討がされている。その過程で EPO は広く意見書を募集した。IBM や Microsoft と GE 等の大企業や Canonical や redhatといったオープンソース主体のビジネスを展開する企業等と並び Knuth 教授は意見を寄せている。
Knuth 教授は意見書の中で、数学的なアイディアは特許の適用範囲外であるべきと述べている。更に、数学的なアルゴリズムと非数学的なアルゴリズムに分けて考えてようとしている特許庁の検討委員会の立場を批判。計算機科学者にとって全てのアルゴリズムは数学そのものであるからだと主張している。
この主張の妥当性を判断できるだけの計算機科学の素養を持たないたれこみ人だが、The Art of Computer Programming の中を見ると説得力があるように感じる。
「非数学的なアルゴリズム」? (スコア:3, 興味深い)
少なくとも、まともな計算機科学者が「アルゴリズム」と呼ぶような代物であればまず間違いなく数学的に厳密な記述が可能(そうでなければそもそも「アルゴリズム」として扱われない)、という意味では納得できる主張だと個人的には思います。
逆に、特許庁の検討委員会が想定している「非数学的なアルゴリズム」とはどういったものなのかが気になります。
真っ先に思い浮かべた候補はスパゲッティソート(という名前でよいのか自信がありませんが、「長さの異なるたくさんのスパゲッティを束ねて平らな机の上に立てると、長いスパゲッティほど上端が高くなる」というアレ)ですが、果たしてあれをアルゴリズムと呼んでよいものかどうかよくわかりません。
#別に計算機科学における用法でしか「アルゴリズム」という用語を使ってはいけないなんて言うつもりはありませんが、
#もっと日常的(?)な意味での「アルゴリズム」にも該当するのかどうか、ということです。
「非数学的なアルゴリズム」って一体どんなものなのでしょう?
Re:「非数学的なアルゴリズム」? (スコア:1, おもしろおかしい)
数学の特許 (スコア:2)
たけしのコマネチ大学で、何かしらの数学的発見に特許をとった人がいて、その発見はフリーで使えない、という紹介があった。
#なんだったかな、素数判定?
knuth先生の意見の真意はわからないけど、もし「数学に特許なんてねぇぜ。ソフトウエアの方もNGにしろよ。」的なことだとしたら、数学もその限りじゃないんだけどなぁ。
#もっと上の次元で話していたら、すまん。
-- gonta --
"May Macintosh be with you"
数字の特許(Re:数学の特許) (スコア:3, 興味深い)
たけしの番組は知らないけど、こういう話じゃないかな。
ソフトウェア特許に反対する人が居た(主に申請を許可する側に数学的意味なんかわかんねーよ的な理由で)
→RSA 暗号に有効な素数の組を特許として申請してみた
→申請が通り、「ある素数(の組)」が特許として認められた(1994: US patent 5373560)
→そら見たことか!
その辺の話はここが詳しいみたい [wolfram.com]です。IEEE に本人のメールも飛んでたみたい。
Re:数字の特許(Re:数学の特許) (スコア:1)
何というか、通した側もよくそんな申請通しましたよね・・・
ところで、ご紹介下さったリンク先によると、件の素数は(数え間違えてなければ)16進数で128桁と256桁、つまり約512ビットと約1024ビット素数ということになりますが、私の考えでは1994年当時の技術水準ではこれだけ巨大な整数が素数であることを現実的な時間で確定的に示すことは不可能か、出来たとしても非常に難しかったのではないかと推測します。
というわけで、当時の特許審査員がどのようにして件の整数が実際に素数であることを確認したのか非常に気になります。それとも、確認しないでそのまま通しちゃったのでしょうか?
#まあ、確定的でなくて確率的な(判定を誤る確率がゼロではない)判定法なら当時から知られていたわけですが。
あと、少なくとも当時の米国特許は先発明主義だったように思いますが、出願の際に件の素数の組が既知でなかったことをどうやって立証したのかも少々気になります。
Re:数字の特許(Re:数学の特許) (スコア:4, 参考になる)
う~ん、ちょっと誤解させちゃったかな。
巨大な素数 p, q があって、(中略)、pq を高速に素因数分解出来ない限り便利な暗号として使えるってのが RSA。
そこに実際の数を当てはめてみせて、その数自体の特許を取ってみせたのが先の例。たとえ特許審査員が「確かに素数だね」って確認したとしても、たかが数字ですよ?そんな調子で色んな数字の特許取られたら世の中どうなります?
似たような「なんだかなぁ」感を感じさせる特許としては、以下が有名ですね。
・排他的論理和の基本的性質: ((x ^ y) ^ y) = x を利用した、画面上にカーソルを xor で書くと同じルーチン/ハードウェアで描画と消去が可能だぜ特許(patent 4197590)
・ウインドウシステムにおいて手前にウインドウを書く前に画面イメージを保存しとくと便利だね特許(所謂バッキングストア:patent 4555775)
前者は 8 ビットゲーム時代には中学生でも思いついてたような内容。後者も誰だって思いつくし X でも採用されていた方法で(もちろん、特許とは独立に)、特許利用可能な人のために(?)xorg.conf の section screen に「Option "Backingstore" "Yes"」と記述することで enable ということになりました(馬鹿馬鹿しい…)。
Re:数字の特許(Re:数学の特許) (スコア:1)
きっととんでもないことになるでしょうね、というのは想像に難くないので、以前のコメントにも
と書きました。書き方が悪くて意図が伝わらなかったみたいですね。
あと、「素数と確認する」のは審査の際に行うべきと思われる事柄の一つであって、「素数と確認しさえすれば通してオッケー」ではないという点でもお互いに意見が一致しているものと思います。
#一言でまとめると、「多分誤解していないのでご心配なく」ということです。
それはさておき、
という件もこれまたとんでもない話ですね。そもそも数学に関する特許審査が云々の前に、特許審査自体ちゃんと機能しているんでしょうか?
Re:数字の特許(Re:数学の特許) (スコア:2)
立証が必要なら車輪の再発明 [ipmenu.com]は通らなかったでしょうね。新しい技術でも「特許に値しない(であろう)特許」ってのもあります。たとえば「レーザーポインタの光で猫をじゃらす」のも特許 [wikipatents.com]です(やった事ある人いるでしょ?)。
# 車輪の再発明は該当する特許庁と併せてイグノーベル賞を受賞しています。
Re:数字の特許(Re:数学の特許) (スコア:1)
Re:数字の特許(Re:数学の特許) (スコア:1)
別コメントにも似たことを書きましたが、それって数学に関する特許だから云々の前に、特許審査自体(もしくはその審査官?)がちゃんと機能していないってことになっちゃいませんか。
「数学がわかっている人が見れば出鱈目な仕方で立証していて、でも審査官は数学がわからなかったので通しちゃいました」だったら数学に関する特許特有の問題ですが、立証自体していなかったということはそもそも特許出願としての体裁の不備になるのではないかと想像するのですが。
Re:数字の特許(Re:数学の特許) (スコア:1)
Re:数学の特許 (スコア:1)
私もあまり詳しくはないのですが、線形計画問題という最適化問題の一種について、従来の「良い」解法としては解の候補のなす図形の表面(もっと言うと頂点と辺)を使うもの(単体法)、その図形の外部を使うもの(楕円体法)が有名なのですが、概要紹介によると新たな解法として図形の内部を使う方法を考案したということのようです。
#どなたかもっと詳しい方がおられましたらツッコミお願いします。
あと、私の記憶ではカーマーカー特許が成立した当時にも、少なくとも数学や数学に近い分野の人達の間では批判的な意見が多かったように思います。
ですので、カーマーカー特許(あるいは他の数学に関する特許)が既にあるといっても、Knuth先生に言わせれば「間違った既成事実があるからといって正しいことにはならない」ということになるのではないでしょうか。
視点の違い (スコア:1, 興味深い)
数式だろうがアルゴリズムだろうが、発明であるか否か(≒特許要件を備えているか否か)は、クレーム中で処理対象を明確にしているか否かだ。
装置発明、方法発明であれば、自ずとそれが明確になる。
数式そのものを特許にしようとすると、処理対象が不明確になる。
この点で、日本の特許制度は発明を「自然法則を利用した技術的思想のうち高度のものをいう(特2条1項柱書)」と、はっきり定義している。
欧米は発明の定義が不明確だからブレまくる。
Bilski事件も、この件も、根本は発明の定義に帰着する。
Re:視点の違い (スコア:2, 参考になる)
リンク先記事で紹介されているKnuth先生のletter [pluto.it]について、タレコミ本文で紹介されている箇所の直後には
という一文があります。これを読む限り、Knuth先生の特許観は日本の特許制度における発明の定義と親和性が高いのかもしれませんね。
#以前お話させていただいた際の様子では、Knuth先生は日本文化への造詣と関心が深いようですので
#ひょっとすると日本の特許制度についての知識もお持ちで、それを踏まえての発言なのかもしれませんが。
Re: (スコア:0)
Re: (スコア:0)
キミは三年特許公報読みなさい。
昔から数学やアルゴリズムをベースにした特許は沢山出願され、そのうち特許要件を備えているものは特許査定/審決を受けている。
嘘だと思うならIPDLで検索してみなさい。
「特許の適用範囲外であるべき数学」 (スコア:0)
>計算機科学者にとって全てのアルゴリズムは数学そのものである
Knuth先生みたいな人から見ればそう見えるんだろうけど、
言語学者であるLarry Wallの追求したものとか
数学嫌いのMatzがこだわることとかまで「特許の適用範囲外であるべき数学」であると言えるか。
数学に通じていくものだとは言えても「特許の適用範囲外であるべき」には及ばないんじゃないのかね。
プログラミングは、数学から出てきたものだろうけど、
プログラミングによって表現されるもの、プログラムに利用者が期待するものは
もっともっと多岐にわたりつつあるような。
それらのルーツとしての数学をリスペクトしろという話なら頷くけど
世の中におけるプログラムの扱い方を規定するに足る意見じゃあないだろうよと。
Re:「特許の適用範囲外であるべき数学」 (スコア:2)
Knuth先生自身が数学寄りな方だということもあって、アルゴリズムと数学を関連付ける表現が強調されていますが、Knuth先生のletterのうち、別コメントにも書いた
や、別の以下の箇所(長いですが)
を読むと、Knuth先生はこのletterの中では物質的あるいは装置的な「製造物」ではなく知識的あるいは理論的な「アイデア」「思想」「表現」に属する存在の象徴として「数学」という存在を挙げているように感じられます。
ですので、数学それ自体が好きか嫌いかという点はこの問題においてはあまり重要ではないかと思います。
まずは (スコア:0)
ヨーロッパにだけノーガード戦法を強いるのは、アメリカの国策?
Re: (スコア:0)
>組版処理システム TeX、フォント制作用プログラム METAFONT、
>アルゴリズムの教科書の金字塔 The Art of Computer Programming
>等で知られる Donald Knuth
これで不足ならこっち [wikipedia.org]読んでね。
# 某所なら”ググレカス”の一言なんだろな。
Re:Appleはオープンソースの敵 (スコア:1)
s/EU/世界